自由に作品を作り出すクリエイター達の宇宙を聞き出すインタビューの第1回。記念すべき回を飾るのは、多摩美術大学で油絵を専攻している渡邊彩音さん。
ビビッドな色使いや、躍動感のある裸婦たち。高校時代の同級生である彼女は、学生時代からインパクトのある絵画を描いていた姿が印象的だった。
そこで今回のインタビューでは、「アイディアの引き出し」を中心に、彼女の中の独特な世界を覗いてみた。
座学の授業は説得力に繋がる
--現在、大学ではどんな事を学んでいますか?
渡邊彩音さん(以下、渡邊):油絵に限らず、自由な表現技法で作品制作をしています。最近まで受験の為の絵を描いていたので、大学では技術やテーマにおいても新しい自分の絵を追求しています。
--様々な授業の中で、特に好きな授業はありますか?
渡邊:民俗学が好きです!民俗学の中でも、特に沖縄の宗教観が面白いです。沖縄のお墓は「亀甲墓(かめこうばか)」という大きなドーム型になっているのですが、実は“子宮”をイメージして作られているのです。
--えっ!お墓がですか?
渡邊:そうです!沖縄には、“母の胎内から誕生し、その一生を終えるとまた胎内へ戻る「母体回帰」”の考えが根付いていて。私の作品テーマが一貫して「母胎回帰」なので、沖縄の民俗学を学ぶことは作品への説得力にも繋がります。
大学での風景課題/ゲルメディウム
メガネを取った時にぼんやりとしか見えない雨の日を表現した作品。
言葉を生まれるきっかけは“人との関わり”
--早速ですが、渡邊さんの「アイディアの引き出し」とは?
渡邊:“言葉”ですね。私は詩や小説をよく読むので、良い言葉やフレーズがあれば常にメモしています。言葉から言葉を広げていき、作品のテーマを作り出しています。
他にも、人の会話の中で生まれる言葉も大切にしています。会話をしていると「私ってこんなこと思ってたんだな」と、現在の自分の感情に気づくことが出来ます。自分の心理状況もかなり作品に影響していますね。
--「言葉で表現する苦手だから、絵で表現する」という人が多い印象ですが、逆なんですね!
渡邊:そうですね。言葉とは、何かしらの縁があって生まれてくるものだと思っていて。これまでの自分の人生や、経験から生まれてくる何ものにも代え難いものです。言葉が生まれるきっかけは人との関わりだと思うので、日常会話も大切にしていきたいです。
マティスに出会って変わった人生
--尊敬する画家はいますか?
渡邊:マティスです。私の今の絵になる上で、一番基盤になる人物ですね。高校生の時に、先生に講評で「中途半端な絵」だと言われていて。ずっと中途半端の意味が分からなくて悩んでいました。そんな時に先生に紹介されたのがマティスでした。マティスの絵は、線や動きが素敵で、とにかく言葉に言い表せないくらいに惹かれました。
--マティスの絵に出会って人生が変わった、という感じですか?
渡邊:まさに!180度変わりましたね。マティスに出会って新しい世界を見ました。真似して描いてみて「自分の描きたいものはこれだったのか」と感動。マティスの表現を見て、絵は自由で良いんだ!と制約から解き放たれるきっかけになりました。
--それがきっかけで描いた作品が「母胎回帰」でしょうか?
渡邊:そうです。高校の卒業制作として描いたこの作品が基盤となっていますね。この作品は、母体がさらに母体に帰ろうとしているところを描きました。私にとって母体とは、帰りたいと思うこの世で1番安全な場所。安心できる場所に帰りたい!という思いからこの作品が生まれました。色にも意味があり、私は作品で顔を描かないので色で個体の感情を表現しています。
高校卒業制作「母胎回忌」/油絵F150
渡邊さんの基盤となる作品。母体の動きやハリが魅力的。
最後に
--作品制作の上で一番大切にしていることは?
渡邊:やはり、言葉ですね。見てくれた人も作品を見て、いろんな話をしてほしいです。私の絵を見てくれたことによって生まれた言葉を大切にしたいですね。コミュニケーションは生きてるうちにしか出来ない事なので、沢山感想を話し合って言葉として作品を残したいです。
--これから挑戦したいことはありますか?
渡邊:立体作品など視野が広い作品が作りたいですね。とにかくいろんな素材に触れて、新しい表現技法にチャレンジしたいです。しかし「母胎回帰」という基盤は変えないで、もっと自分の絵画性を突き詰めていきたいです。
構成・文/大橋麻衣
大学での作品「幸福の寂しさ」/油絵
空想の人から聞いた思い出話を言葉から連想させて描いた作品。
これは彼女と友人が最後に会った時の思い出。
大学での作品「幸福の寂しさ」/油絵
怪我をした時に舐めてもらった思い出。
大学での作品「幸福の寂しさ」/油絵
友人がお母さんから生まれた時の思い出。
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